2月28日に国務院新聞弁公室から「中国の民族区域自治」と題する白書が発表された。日本語版は『北京週報』のHP(http://www.pekinshuho.com/2005/2005-09/2005.09-wenxian.htm)で簡単に見ることができる。一読して,訳文に気になるところがあったので,以下に記しておきたい。
●「
清朝の中央政権は異なる民族地区の特徴に照らして異なる管理措置をとり、蒙古族地区では盟・旗制度を実行し、チベットには駐蔵大臣を派遣し、ダライとパンチェンの二人の活仏への冊封を通じて行政宗教合一制度を実行し、新疆のウイグル族が最も集中している地区では伯克(清朝が新疆ウイグル地区に設けた官吏——訳注)制度を実行し、南部の若干の少数民族地区に対しては土司(中国が元・明・清時期に西南地区に設けた少数民族を統治する施政官——訳注)制度を実行した。」
按ずるに,「政教合一制度」を「行政宗教合一制度」とするのは,的はずれである。もとより,ダライ・ラマ体制を「政教合一」と規定すること自体,大いに問題があるが,それは別問題。ここは原文のままで良いのではないか。また新疆の「ベク」制度は,漢字のままだとかえってわかりにくい。
●「
2003 年末現在、チベット自治区にチベット仏教の活動施設が 1700 余カ所あり、寺院に僧侶と尼僧が約 4 万 6000 人おり、新疆ウイグル自治区にモスクが合計 2 万 3788 カ所あり、神職者が 2 万 6000 余人おり、寧夏回族自治区にモスクが 3500 余カ所あり、神職者が約 5100 人いる。」
按ずるに,ウラマーを「神職者」と解するのはいかがなものか? 原文は「教職人員」で,さすがに抜かりない。「聖職者」でも,厳密に言えばやはり誤訳だろう。「イスラーム学者」とでもすべき。イスラームへの理解の程度が問われるところである。
●「
国は多額の資金を投じてラサのドブガイ寺、セラ寺、カンタン寺、青海のタル寺、新疆のキズル千仏洞など多くの国家級重点文化財・古跡を修繕している。」
按ずるに,チベット仏教ゲルク派のラサ三大寺院といえば,デブン・セラ・ガンデン寺に相場が決まっている。「ドブガイ」というのは,いくら頭をひねってもわからない。「哲蚌(デブン)」の後字を辞書で引くとドブガイとの訳語あり。抱腹絶倒の珍訳ですね。ついでに言うと,青海にあるのは「タール寺」,新疆クチャのは「キジル千仏洞」とするのが一般的。
ほかにも固有名の表記でいくつか気になるところがあった。歴史と権威ある雑誌ゆえ,敢えて苦言を呈した次第。(村田雄二郎記)