ロバート・G・リー著『オリエンタルズ──大衆文化のなかのアジア系アメリカ人』
貴堂嘉之訳,岩波書店,2007年5月30日刊,311+27ページ,4400円+税,ISBN:978-4-00-022390-4
小説や映画を題材とした,アメリカのアジア表象史の記号分析。訳者の貴堂さんとは,むかし『カミング・マン』をいっしょに訳した仲で,書中にも『カミング・マン』でなじみの政治漫画が何枚か紹介されていて,懐かしさを覚えた。第7章「ロサンゼルス暴動以後」を読んで思ったのは,1980年代の「日本たたき」といまメディアで繰り広げられているチャイナ・バッシングの相似性である。この現象の背後には,言うまでもなく,急成長する日/中経済の脅威があった/ある。大事なのは,かつてのジャパン・バッシングが人種ではなく文化──西洋とは決して交わることのない,また永遠に変わることのない異質な文化──を根拠とする不安の表出だったという指摘だ。本書では,映画「ライジング・サン」を素材に,日米文化の「根源的異質性」にまつわる表象批判が展開される。とすれば,これからアメリカや日本で起こりうるのは,同じく「文化」を借りたチャイナ・バッシングだろう。いや,中国たたきはすでに始まっているようだ。こういう時機にこそ求められるのは,どこにでも起こりうる(「欧米」内部にも!)紛争や摩擦の原因を「文化」や「国民性」に還元するのではない,冷静なスタンスだろう。しかし,本書に登場するたくさんのアメリカ映画を私はほとんど見ていない。自分がいかにハリウッド嫌いか,再確認した次第。(村田雄二郎)