東洋文庫現代中国研究班が進めている「日本人の中国旅行記」プロジェクトの成果が発表されました。
今回は戦前/戦後を通じた「増補版」になります。詳細は「はじめに」を御覧ください。(村田雄二郎)
「はじめに」より
東洋文庫超域アジア研究部門に置かれた現代中国研究班国際関係・文化グループは,2018年度に『明治以降日本人の中国旅行記(解題)』(東洋文庫近代中国研究委員会編,1980年刊。以下「本篇」)を補充するプロジェクトを立ち上げ,「本篇」未収録の戦後刊行物について新たに解題を作成し,「補遺(戦後編)」として2021年3月にPDF版をウェブに公開した(第一期)。
その後,本プロジェクトのさらなる進展と充実をめざし,2021年度から戦前・戦後を含む時期の悉皆調査を行い,リストの追補と解題執筆の作業を継続した。結果として,新たに加えられた旅行記のリストと解題を第一期の成果と併せ,増補版としてここに公開するに至った(第二期)。
第一期の「補遺(戦後篇)」が40冊(1981年以降の3冊を削除),第二期の追補でさらに68冊が加わり,「本篇」の増補版としては計108冊(文献1件を1冊とカウント)を収録することになった。増補にあたっては,以下の方針を定めた。
① 戦前(明治以降1945年8月まで)の旅行記を含め,1980年刊行の「本篇」に採録されなかった(あるいは「本篇」刊行後に購入・寄贈された)東洋文庫蔵本を対象にした。その中には,稿本や写本の類も含まれる。これにより採録の範囲は若干拡大することになった。
② 採録時期(出版年)の下限を第一期では暫定的に1979年としていたが,第二期では便宜的に1980年に改めた。その理由は,1981年以降,訪中旅行記の数が激増し,その性格(ひいては日中関係のあり方)が大きく変わったと考えるからである。
③ 第一期と同じく,狭義の旅行記のみならず,訪問・視察・短期滞在・留用などの記録,また写真集なども採録した。ただし,回想録や調査記録,旅行案内書,中国訪問をもとにした評論などは除いている。
④ 東洋文庫に収蔵される書籍以外に,戦後部分については,国立国会図書館で閲覧可能な日本人中国旅行記も加えることとした。
⑤ 解題の作成にあたっては,第一期同様,記名方式を取り,末尾に解題執筆者の氏名を掲げた。
以上の方針にもとづき,2021年度より追補本のリストと解題の作成を進めた。作業にあたったのは以下の8名である。池田尚広,久保茉莉子,関智英,辻直美,中村元哉,村田雄二郎,山口早苗,吉見崇。
本プロジェクトは,次年度に向けてさらなる計画を立てている。「本篇」と今回公表する増補版と一体化して統合版とし,テキストベースでウェブ上に公開して利用者の便に供することである。すでにデジタル・テキスト化はほぼ完了し,目標としては2024年度以降に東洋文庫のメディア・レポジトリに統合版の解題全文を公開することを予定している。メタデータの作成やデザイン上の工夫など,技術的な問題を含めて検討すべき課題は少なくないが,なるべく早い時期の公開をめざして,「明治以降日本人の中国旅行記」データベースを完成させる所存である。
2023年9月25日
東洋文庫超域アジア研究部門
現代中国研究班 国際関係・文化グループ
村田雄二郎