許雪姫『離散と回帰──「満洲国」の台湾人の記録』(羽田朝子,殷晴,杉本史子訳),東方書店,2021年6月,616頁,定価:8,800円,ISBN/ISSN 9784497221094
*著者のこの研究には以前から注目していたが,今回,台湾版に先行して日本語版が出て,成果をまとまったかたちで読めるようになったのはありがたい。台湾史研究の新たな展開=転回の可能性を感じさせる労作である。(村田雄二郎)
【内容紹介】
日本における「満洲国」の研究蓄積は、非常に充実している。ただし、その対象はほとんどが日本人についてである。戦前、日本領だった台湾からも、「王道楽土」を目指して「満洲国」へ渡った人々がいた。台湾人でありながら「日本人」でもあった彼らが何故「満洲国」へ渡ったのか、現地でどのような生活を送ったのか、そして日本の敗戦をどのようにして迎えたのか、などなど、その実態はほとんど描かれることがなかった。著者は、オーラルヒストリーの手法で満洲経験者の話を集め、様々な資料を蒐集し、それらをもとに彼らの実態を描き出す。本書は、日本近代史、台湾近代史の空白を埋める貴重な資料である。
【目次】
「台湾学術文化研究叢書」刊行の辞(王徳威)
はじめに
第一章 概論
一、ディアスポラの文献回顧と分析
二、日本統治期の台湾人の海外活動に関する研究回顧
三、満洲国研究の回顧
四、満洲国の台湾人に関する研究史料
五、本書の構成
第二章 台湾人の「満洲経験」
一、清代における台湾人の遼東・遼西に対する認識
二、「満洲国」の建設
三、台湾人の越境の理由
四、満洲へ向かった時期区分と分布
五、満洲への交通と人数
小結
第三章 満洲で教育を受けた台湾人
一、高等教育のための中等学校への入学
二、医学校の卒業生
三、工科大学の卒業生
四、法律科の卒業生
五、商業学校の学生
六、満洲国の最高学府——建国大学
小結
第四章 満洲国官僚体系の建設と台湾人官僚
一、満洲国の官僚体系の建設と台湾人官僚
二、満洲高等官僚の揺籃——大同学院
三、中央政府に任職した台湾人
四、地方における公職
五、満洲国軍
小結
第五章 非公職の台湾人、満洲における台湾人の生活
一、国営会社
二、特殊会社、準特殊会社
三、その他の組織
四、台湾人の満洲での生活
小結
第六章 満洲にいた台湾人医師
一、満洲での医師資格の取得と満洲の衛生環境
二、早期に満洲へ行った台湾人医師
三、後期に満洲にいた台湾人医師
四、研究、教学に従事、あるいは医療行政システムに入った台湾人医師
五、医師の家系
小結
第七章 台湾人の満洲における戦争体験
一、ソ連軍の占領と国共内戦
二、非常事態に直面した台湾人の動き
三、台湾人が直面したソ連兵の暴行
四、台湾人、日本人、朝鮮人の戦後の境遇
五、遙かなる台湾への帰路
小結
第八章 満洲経験者のその後の境遇と二度目の離散
一、試験、就学と教職就任
二、政治事件の中での受難者
三、再度の離散
四、東北に残った者たちの境遇
小結
第九章 結論
一、満洲にいた台湾人を研究した理由
二、満洲経験についての研究とその特色
訳者あとがき(羽田朝子)
解説(関智英)
索引(事項・人名・研究者名)