村田雄二郎 C.ラマール編 『漢字圏の近代──ことばと国家』
東京大学出版会,2005年9月中旬刊
序章 漢字圏の言語 村田雄二郎
第一部 ことばと権力
1. 台湾の近現代と二つの「国語」 若林正丈
2. 国語・日本語・帝国 安田敏朗
3. しゃべるな 危険 ──十七~二十世紀中国における女のことば 平田昌司
第二部 古典からの離脱
4. 漢文の命脈──古典文から近体文へ 齋藤希史
5. 近代中国における文学言語 伊藤徳也
6.鬼を打つ──白話、古文そして歴史 中島隆博
第三部 異なる文字体系の狭間で
7. 近代ベトナム語における「漢字」の問題 岩月純一
8. 朝鮮語と漢字 生越直樹
9. 地域語で書くこと── 客家語のケース(1860-1910) C・ラマール
コラム
年表
ブックガイド
序章より
「・・・では,東アジアにおける言語・文字使用の実態とはいかなるものであったのか。多言語的・混成的な言語状況から,言(話しことば)と文(書きことば)が有機的に結合した自己完結的な言語共同体=国語という理念への移行はいかにして生じ,その過程でいかなる模索や葛藤があったのか。本書のいくつかの章は,個別の歴史的状況にもとづきつつ,この問題に答えようとしている。読者はその中から重要ないくつかのヒント・示唆を得られるであろう。
本書は,漢字圏における近代国語の成立について,横の比較の視点を組み込むことで,より立体的な歴史像を浮き彫りにすることを目的に編まれた。それぞれの国語については,ナショナリズム批判という観点から,とくに日本において多くの研究成果が生まれてきた。本書はそれをひろく東アジア漢字圏という時空の広がりの中に解き放つ試みでもある。同時並行的に「近代」を受容しながら,「国語」をめぐる思想や運動には,各国特有の文脈や環境に応じた差異が見られることが,本書から読みとれるであろう。また,相互の参照を通じて,各「国語」における漢字の位置づけや規範化をめぐる異同も明らかにされるはずである。」