25日より本日まで,京都の日文研で開かれた国際会議に参加してきました。私は主催者の好意で,飛び入りのようなかたちで参加させていただき,また前半だけ参加して,東京に帰ってきたのですが,私にとって,内容豊富で新鮮な会議だったので,プログラム(一部)だけでも紹介しておきます。
「東アジアにおける近代諸概念の成立」
基調報告
・ 鈴木貞美「近代における「知」の再編成を探求する──概念とジャンルを中心に」
・ 馮天瑜「新術語の生成──「封建」を例として」
セッション1:前近代における「概念」の成立の状況とその展開
・ 柳父章「近代日本における漢字による翻訳造語」
・ 潘光哲「『封建』とfeudalismの遭遇」
・ 李興忠「『倭寇』の記憶と明清期『海権』概念の生成」
・ 張哲嘉「近代漢字医学述語の生成──『解体新書』と『全体新論』」
・ 荒川清秀「日中学術用語の形成と伝播──地理学用語を中心に」
セッション2:近代概念の生成
・ 劉禾「超・記号と観念の生成──『夷』をめぐる阿片戦争中の諸言説」
・ 沈松僑「近代中国における『国民』という概念」
・ 章清「『国家』と『個人』の間──清末の『自由』をめぐる諸言説について」
(以下,参加していないので略に従います。)
全体の半分弱しか参加していないものの感想ですが,総じて充実した報告が並び,概念史研究の射程と深みを感じさせる議論を聞くことが出来ました。報告者も大陸,台湾からの中堅・若手がたくさん集まり,旧知・新知の友人と交流を深め得たのも収穫でした。一つの語──「自由」にしても「封建」にしても「国民」にしても──に着目することは,想像以上にtranslingualな空間を開く視座を提供してくれるし,それだけに今後の一つの魅力的なプロジェクトになりえることを痛感しました。ただ,この作業は,複数の言語や文化に通暁することはもとより,歴史・言語・文学・思想・哲学・自然科学等々の領域にまたがるだけに,まさしく学科横断的な合作が必要とされます。とくに日中の研究者の実のある交流が待たれると思いました。中国では近代的「学科」編成の歴史化への関心が高まっているらしいので,これから続々成果が出てくるのかもしれません。(報告者の左玉河さんからは近刊の『従四部之学到七科之学──学術分科与近代知知識系統之創建』をいただきました。)教育制度や大学機構,教科書など,日本の近代「学知」が他国にもたらした影響に関する本格的研究が,いずれ日本からも現れるでしょうか。
上記シンポジウムは日文研の総合プロジェクトの第一段階の締めくくりだとこと。今後のさらなる展開が望まれるところですし,研究成果を早く世に問うてほしいものです。
(村田雄二郎記)