このたび東京大学大学院人文社会系研究科・文学部にて教鞭を執られている廖肇亨先生をお招きして例会を催します。報告と質疑応答はすべて日本語で行われます。みなさまお誘い合わせのうえ,ふるってご参加ください。
日 時:2013年9月3日(火) 午後4時から6時まで
場 所:東京大学本郷キャンパス赤門総合研究棟7階738番室
報告者:廖 肇亨(東京大学准教授,中央研究院中国文哲研究所研究員)
題 目:黄遵憲の前駆──清朝中葉の詩歌からみた前近代の世界像
コメンテーター:佐藤 保(学校法人二松學舍顧問・お茶の水女子大学名誉教授)
概 要:
流派が林立した中国近代文学史において中国詩学に斬新な境地を切り開いた黄遵憲は「詩界革命」の火付け役として名を馳せ、中国のみならず、日本、南洋にも名高い存在となった。中国近代文学史において広汎な影響力をもつ人物といえば、黄遵憲の右に出るものはないと言っても過言ではあるまい。
従来の研究では、黄遵憲の作品が積極的に新世界の物事を取り入れて、当時、変わり行く世界情勢に関心さえ持てなかった中国の読者に世界を認識する窓口を開いたうえ、停滞していた詩風に息吹をもたらし、詩壇の変貌を成し遂げることになった、という見解が広く受け入れられ、ほぼ定説になっている。
ただし、近年、中国近代詩学研究の重鎮で、黄遵憲『人境廬詩草』の注釈者でもある銭仲聯氏は、黄遵憲が独自の詩風を樹立する以前、前代詩人の成果を受容していた事情に着目し、清朝中葉の著名な詩人である胡天游、阮元、舒位(特に舒位)等の作品を取り上げ、黄遵憲への影響を解き明かそうとした(『銭仲聯講論清詩』参照)。さらには、長い間冷遇されてきた清朝中葉の詩歌の再評価をも行おうとした。本論は銭仲聯氏の卓越した見識に基づいて、胡天游、阮元、舒位から紀暁嵐、李鼎元、鉄保(満族)、法式善(蒙族)等々の詩人にまで研究の視野を広げてみたい。彼らの著作の中には、異文化を主題とする作品も少なくない。惜しむらくは、袁枚以外、清朝中葉の詩歌が軽視される傾向が強いということである。本論は、清朝中葉の詩歌を通じて、前近代の世界像をスケッチし、黄遵憲をはじめとする「詩界革命」の人々との連関を再検討することを目的とする。
言 語:日本語
司 会:小島 毅(東京大学大学院人文社会系研究科)
主 催:中国社会文化学会