近刊案内・小野寺史郎『国旗・国歌・国慶──ナショナリズムとシンボルの中国近代史』

本書は,中国が近代国家建設を目指した19世紀末から20世紀半ばの時期に,三つの異なる政治主体(清朝政府,民国北京政府,南京国民政府)が,国民統合の推進を目的として,どのように政治シンボルを創出し操作したのかを,国旗や国歌・国定記念日などの具体的事例にそくして明らかにしようとした労作である。近年来,中国近現代史の領域でも,シンボルや儀式の果たした政治的統合作用に注目する研究が,中国語や英語圏の学術界にあらわれつつあるが,本書は,それらの先行研究を充分に吸収・消化しつつ,政府や国民党の档案など原資料を用いて,シンボルや儀式の創出とその政策決定・施行の過程を丹念に解明している。とりわけ本書の斯界への最大の貢献となすべきは,政治シンボルにから見たナショナリズム論として,中国近現代史の研究に新生面を切り開いたことである。読者は本書を通じて,北京政府と南京政府が追求したナショナリズムの性格の違いや,時期によりまた政治主体により,シンボルや政治儀式の創出・浸透のあり方には,大きな差異の存したことを知るであろう。中国史以外の領域に対しても,視覚に訴える国旗の表象分析や国歌という聴覚に関わるシンボルをめぐって,近代国家創出の過程における相互の影響関係や比較の視点・素材を提供するものである。(村田雄二郎)