
現在刊行中の岩波新書「シリーズ中国近現代史」第2冊は,清末から民国前期(北洋政府期)を扱う。先日参加した上海の会議でも,清末~民初期が中国近代史に占める特異な位置とその重要性が議論になったばかり。「乱世」であるだけに,思想史的には春秋戦国期・魏晋南北朝期についで中国史上最も活気に満ちたおもしろい時代であるとも言えよう。はやりの「清末なかりせば五四なんぞ来たらん」(David Wang)のひそみにならえば,「袁世凱なかりせば五四なんぞあらんや」(?)。
著者が指摘するように,中国という国家・民族意識の成立にしても,王朝版図の継承にしても,革命と暴力にしても,地方の「自立」にしても,大国意識に基づく外交にしても,現代中国が抱える課題の淵源はすべてこの時代にあるといっても過言ではない。日本では研究者が減るばかりのこの時代への学的関心が,最新の研究成果手際よくを取り込んだ本書の刊行を契機に,いささかでも高まることを期待したい。(もっと率直に言えば,資料が多いわりにまともな研究が少なく,やるべきテーマはいくらでもあるという点,若手にとっては「狙い目」である。)(村田雄二郎)
川島真 『近代国家への模索 1894-1925』(シリーズ中国近現代史),岩波書店,242頁,2010年12月17日,定価 820円 + 税5%,ISBN:978-4-00-431250-5 C0222。
日清戦争や義和団戦争に敗北した清朝は,変法・自強や光緒新政などの改革を試みながらも,求心力を失っていった.そして,辛亥革命により中華民国が誕生するも,混乱は深まっていく.列強による「瓜分の危機」の下で,「救国」の考えが溢れ出し,様々な近代国家建設の道が構想された30年を,国際関係の推移とともに描く.