
三澤真美恵 『「帝国」と「祖国」のはざま――植民地期台湾映画人の交渉と越境』岩波書店,2010年8月,347頁,8200円+税,ISBN:978-4-00-024028-4
中国・植民地台湾・日本を「越境」しようとしたがために,敵対するナショナリズムの狭間で抑圧され忘却されていった映画人,何非光,そして劉吶鴎。かれらの「交渉」と「抵抗」の足跡を通じて,東アジア近代の「もう一つの」歴史が活写される。著者は「はっきり国旗を背負った人」と「国旗を胸に持たない人」の葛藤と緊張の活劇を描き出すことに見事に成功しているが,19世紀の文献を読んでいる人間からすると,「国旗の背負いかたに」もさまざまなバリエーションと振幅があったにもかかわらず,総力戦と動員体制がこの選択の幅をいかに狭めてしまったか,言いかえれば,ナショナリズムによって人間の生き方や思想がいかに窮屈なものになったかを痛感させられた。はなはだ陳腐な疑問だが,「近代」は東アジアの人々を解放したのか,抑圧したのか?(村田雄二郎)