新刊紹介
中央大学人文科学研究所編『民国後期中国国民党政権の研究』
中央大学出版部,2005年3月31日,590頁,7000円+税。
1986年刊の『五・四運動史像の再検討』以来活動を続けてきた,中央大学人文科学研究所の中国研究チームによる第四論文集。構成は,
第一部 支配の理念と構造
第二部 国民統合と地域社会
第三部 国際関係と辺境問題
の三部から成り,国民政府(1928-49年)についての研究論文13本と,付録「国民党史政権のための文書館・図書館案内」を収める。
昨今予想外の展開を見せつつ激化する北京学生の反日行動を念頭に置きつつ,服部龍二「『田中上奏文』と日中関係」を読む。日本では「田中メモランダム」は偽物であることが定説になっているが,中国では研究者も含めて,その実在を信じている人はいまでも少なくない。歴史の記憶のされ方,つくられ方という点で,非常に興味深い現象である。この有名な疑案に対して,著者は新公開の国民政府外交部档案なども用いながら,歴史的偽文書の制作・流通過程を丹念に解き明かそうとする。結論は,国民政府も日本の抗議を受けて調査した結果,いちどは田中上奏文が偽書であることを確認していた。だが,東北・張学良政権下では抗日宣伝の格好の材料としてこれが流布し,満洲事変勃発後は,国民政府も田中上奏文を反日の宣伝に活用する姿勢に転じた,というものである。
「仮に満洲事変がなければ,「田中上奏文」は,当時無数に存在した反日文書の一つに終わっていたであろうか。」(481頁)の一文がズシリと重く響く。
「弄假成真」! 集団心理が織りなす歴史の「真実」というものもあるはずである。
さて,排日取り締まりを日本政府が中国当局に要求するという,中国近代史を知るものにとって既視感のあるこの光景が,21世紀のこんにち反復されるとはいったい誰が予想しただろうか?(村田雄二郎)