Henrietta Harrison,
The Man Awakened from Dreams: One Man's Life in a North China Village, 1857-1942, Stanford, California: Stanford University Press, 2005, viii, 207p.
Preface
1. Writing
2. The Confucian Scholar
3. The Filial Son
4. The Representative of the People
5. The Marchant
6. The Farmer
Epilogue
本書は
The Making of the Republican Citizen: Political Ceremonies and Symbols in China, 1911-1929, Oxford: Oxford University Press, 2000. 及び
China, London: Arnold, 2001. に続くハリソンの3冊目の単著である。前2著が清末から民国前期の中国社会を巨視的に捉えたものであったのと対照的に、本書は清末から日中戦争期までを生きた劉大鵬という人物の伝記という形式で問題を極めて微視的に捉えている点に特徴がある。また目次から分かるように、時間軸に沿って問題を整理するのではなく、挙人であると同時に鉱山経営者であり諮議局議員でもあった劉大鵬という個人の様々な側面に焦点を当てることを通じて、それぞれの面における地域社会との関わりを描くという手法を採った点も注目すべきだろう。
主な史料としては、題名の元となったエピソードの収められた『晋祠誌』(慕湘・呂文幸点校、山西人民出版社、1986年)の他、著名な『退想斎日記』の手稿本(山西省図書館蔵)や、筆者自身が1999年に劉大鵬の孫のLiu Zuoqing氏らに行ったインタビューが多用されている点が目をひく。ただ、編集側の問題かもしれないが書中で漢字が全く使われておらず、頻出するローカルな地名や人名の同定に非常にストレスを感じたことは指摘しておく。
問題を明示せず、専らエピソードを積み重ねていく記述様式を採る本書は、前2著とはかなり毛色の違う印象を受けるが、通底するハリソンの関心はやはり近代化が中国社会に与えた影響という点にあると思われる。ハリソンは現在の山西省の農村社会の状況に触れた上で、本書を以下のように締め括っている。
「赤橋村やその周辺の村々の多くもまたおそらく、都市によって飲み込まれるように破壊されるであろう。1900年代に始まった近代化の過程が結果として作り出した都市と農村における生活標準の巨大な格差を考慮に入れれば、それはその過程の最良にして最も論理的な帰結かもしれない。それが次の世代により多くの機会をもたらすであろうことは疑いないが、しかしそれはまた人々を彼らの故郷から引き離し、何世紀もの間存在してきた共同体を破壊するであろう。1900年代以後に起きたように、変化はそれに巻き込まれる人々の意見をほとんど考慮することなく、またそれを通じて生活する多くの人々に重い負担を課すのと引き換えに、近代化する国家modernizing stateによって強制されている。」(p170)
(小野寺史郎)