賈樟柯(ジャ・ジャンクー)著『ジャ・ジャンクー 「映画」「時代」「中国」を語る 』, 丸川哲史 ・佐藤賢訳,以文社,2009年12月,278頁,ISBN:978-4-7531-0274-7,3200円+税。
昨年12月,北京での某シンポジウムのスペシャル・イベントとして,公開前の『四川のうた』(原題『二十四城記』)の試写があり,そのあと監督を囲んでの座談会が催されたのだが,映画をみたものの,夜遅く疲れていた私は,座談会には参加しなかった。本書を読んで甚だ悔やまれるのが,監督の肉声に接する貴重な機会を逸したことだ。とにかく,フィルムにも劣らず,かれの著す文章,語ることばもまた,すばらしく美しく,力強い。影像とことばの両者を貫くもの,それは現実に対するたぐいまれな批判精神であり,それを持続し表現する力だろう。かれの作品は,政治的言語から一見距離を置くようにみえて,かえってそのことにより,映画産業界への批評を突き抜けて,いま・ここの現実批判の効果を高めている。訳者の丸川さんが解説で指摘するように,魯迅の小説や雑文を想起させる文体だ。外から08憲章を云々するのもけっこうだが,流動的な現実とそこで生きる人びとの「生」にじかに向かいあう地点からの,よりリアルで繊細な批評精神のはたらきが,ここに脈々と息づいている,そのことを忘れないようにしよう。(村田雄二郎)