★★★新刊紹介★★★
原宗子『「農本」主義と「黄土」の発生──古代中国の開発と環境2』
研文出版,2005年,480頁,11550円。
中国四千年の歴史は,環境破壊四千年の歴史でもある。
環境破壊の影響ははたやすく国境を超える。
「環境」はボーダレス時代の全人類的課題である。
『古代中国の開発と環境──『管子』地員篇研究』(研究出版,1994年)に続く本書で,著者は中国環境史を戦国期に遡って構築せんとする。
「秦の富国強兵政策が,鉄器の普及をもたらし,そのため森林が伐採されて,砂漠化・乾燥化が進んだ」とは,よく語られるストーリーである。が,著者は「草地の喪失」に着目し,「中原」の穀物生産優先主義が,草地を必要とした牧畜民の生活基盤を奪っていったことを指摘する。
「大田耕作主義の中に,労働力の土地への投入を生活継続の絶対条件とする意思の徹底を前提として,緻密な除草中耕による地力維持が定式化され,家畜の中で草地を必要としないブタ・ニワトリ・イヌのみを残して,それらの飼育を人間の排泄物利用と耕地間通路の雑草等の利用で賄う定式も確立させ,民衆を土地に緊縛した。」(469頁)
つい最近も「集団化」と言われるよく似た運動があったような・・・。これを著者は中国的「農本」主義だと規定し,その牧畜排除を華夷思想の発生に結びつけている。
「前近代の生産力段階において,大田耕作民と牧畜民が同一地域内で『共生』してゆくためには,生活様式を『殺し』て個々の人間の生命を生かす道が選択されたのだと思われる。生活様式支配も,必要悪とされるのである。否,むしろ各時代の当事者,殊に統治機構の支配者にとっては,それこそが『善』であり,文化──『文もて化す』である,との価値観も確信されていた。」(154頁)
異なる生業や生活様式との接触が,他者(異族)の排除と包摂のパターンを生み出したというわけで,なかなか説得力がある。ところで,書中に中国の食文化における牛肉貶視の具体例として,マグドナルドのハンバーガーよりもケンタッキー・フライドチキンのほうが高級感があるという北京での話が出てくるが,本当でしょうか? 心当たりがあるようなないような・・・。(村田雄二郎)