平成17年度第4回定例研究会のご案内
日時 11月10日(木) 午後2時~4時
場所 東京大学東洋文化研究所 大会議室 (3階)
報告者 板倉聖哲(東洋文化研究所助教授)
司会者 小川裕充(東洋文化研究所教授)
討論者 小島毅(大学院人文社会系研究科助教授)
タイトル 北宋中期知識人の絵画表象-「雎陽五老図」を中心に
要旨
中国、北宋時代の知識人たちはメディアとして言葉のみならず画像を用いて情報伝達・交換をしており、又、文学・絵画作品をしばしば一体のものとして生産・消費していた。そして、知識人の集いの場はまさにそうした絵画・文学作品を生み出す重要な場となっていたことは確かである。
米国の美術館に分蔵される「雎陽五老図」断簡(メトロポリタン美術館・イェール大学美術館・フリア美術館)は北宋時代、真宗・仁宗朝に仕えた杜衍・王渙・畢世長・ 朱貫・馮平、5人の肖像である。彼らは致仕後、雎陽に集い、白居易の洛陽九老会に準えて「五老会」を作ったという。本図はこの「五老会」を前提として成立したものである。中心人物の杜衍は「慶暦の治」における改革派のパトロンながら、その序を銭明逸が記しており、その成立の状況を知ることができる。
この画巻は北宋後期において旧法党の文人たちの間で鑑賞されたことが、多くの跋の存在から理解される。その際には古き良き時代の憧憬の文人ネットワークの表象として扱われていた。元時代に至っては朱貫の末裔に伝来して、さらに祖先の肖像としての側面も強調されるようになる。つまり、本図は流伝の中で様々なコンテクストが引き寄せられ、当時の画壇、特に文人の私的な絵画表象に影響を与えてきたのである。
本発表では、まずこれらの画を分蔵される跋や模本、文献から復元し、成立の前提・ 状況を明らかにする。さらにそれがどのような史的位置を持つのか、後世の受容という観点から検討を加えたい。