「20世紀中国を代表する自由主義者の一人が儲安平だ」との評価は既に定着しつつある。しかし、だからこそ、現代中国で彼を客観的に研究することはなお困難を極めている。90年代に刊行された張新頴編『儲安平文集(上下)』(東方出版中心、1998年)も、彼の思想の核心部分を削除している。
それから約10数年。今回編纂された『儲安平集』は確かに「前進」している。加えて、網羅的であり、有益な史料集であることは間違いない。
だが……。儲の真髄を表す思想部分は依然として削除されている。たとえば、「共産党について」(『客観』第4期、1945年12月1日)のうち「共産党と民主・自由」は現代中国の不都合な真実であるかのように全文カットされている。その理由は、同文集の該当箇所に詳しい。
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<補足>
『新編 原典中国近代思想史』第7巻(岩波書店、
2011年夏刊行予定)では全文訳出してあります。
大陸で刊行される史(資)料集だけではやはり不
十分です。原文・檔案第一主義にも意義はあります。
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なお、同シリーズには『陳布雷集』(東方出版社、2011年)と『張季鸞集』(東方出版社、2011年)もある。併せてご参照ください。
中村元哉