上海万博開催の余波か,パジャマ外出批判がかまびすしい。警官の取り締まりもさして奏功せず,庶民の身をもっての抵抗は健在なようだ。たしかに,パジャマを着て外出するのは不心得だろう。しかし,あれはパジャマではない。端的に「睡衣」なのである。部屋着兼用の似て非なるものなのだ。昔,人類学者が香港でパジャマを着て外出できる範囲を,実地調査をもとに分析した論文を読んだことがある。キーポイントは,家のせまさから「台所」を限界まで外に拡張ざるをえなかったということだ。下部構造に規定され,台所機能をほとんどアウトソーシングしたのが,香港パジャマ文化なのであった。上海も同断である。大げさに言えば,「台所」の空間構造が内外でつながっているのだ。だから,いかにパジャマ好きの人でも,大通りには絶対出ない。パジャマ許容範囲は心理的にちゃんと画定されている。それを見苦しいと感じるか否かは,作られた主観の問題だろう。クレオール文化や「複数の近代」を主張する人たちは,こういうときこそ堂々とパジャマ外出批判に反論してほしい。(村田雄二郎)