「近きに在りて」最新号目次
特集にあたって
本号は,中国近現代リベラリズム研究会(CLS)の編集による特集号である。
総勢10名前後のこのささやかな会が成立したのは,2005年のことである。中国の思想史や政治史,経済史,社会文化史などを勉強する教員・大学院生が集い,従来あまり日の当たらなかった中国リベラリズム関係の著述を系統的に読む勉強会をひらくことから活動を開始した。
研究会を立ち上げた動機は,一言でいえば,中国近現代史研究において重要な問題圏をなすと思われるリベラリズムの歴史遺産を,今日的関心から多面的に読み込むことにあった。ここでいうリベラリズムとは,たんに思想史・哲学史としてのそれだけではなく,経済政策や出版メディアにおいて具体的に現れてくる「自由主義」も含まれている。近代的法制度の導入をめぐる立憲主義とリベラリズム・民主主義の関係も視野に入っている。さらに,党や政府の内部における反専制・反統制的志向や人権尊重の動き,貧困や社会的抑圧に対する公権力の「介入」も,広義のリベラリズム(“官方自由主義”)として,考察の対象に含めている。
読書会は近年出版された研究著作から,毎回一冊をテキストに選び,メンバー間で報告・コメントを分担し,さらに徹底的な討議を重ねるという形式をとった。本特集の一部をなす書評群は,そうした継続的な読書会の成果である。
読書会と並行して,CLSは国外の専門家との交流にも力を注いできた。今回掲載した章・聞・江各教授の論考は,当初われわれの研究会に討論ペーパーとして出されたものである。報告の際には,各ゲストを質問攻めにし,ときに熱が入るあまり,予定時間を大幅に超過することがあった。それにもかかわらず,報告者は質問に丁寧に応じてくださり,改稿の求めにも快諾をいただいた。また,伝統的リベラリズム研究とはやや異なる視角から,農村社会史,現代中国法の専門家である山本,石塚両氏にご寄稿いただいた。各位にはこの場を借りて,謝意を表したい。
研究会はすでに他誌で小特集を組み,対外発信にもつとめている(「近現代中国と東アジアの公共性──自由と統合をめぐって」,『中国──社会と文化』第22/23号,2007/2008年)。また,この9月に復旦大学でワークショップをひらき,中国の研究者と交流を行った。今後も読書会や研究会を継続発展させるとともに,国際的な場にわれわれの研究成果を発信していきたいと願っている。博雅の示教と批判を乞う次第である。
2008年10月
中国近現代リベラリズム研究会を代表して
村田 雄二郎 識